ホンダジェットHA-420とその後の展開について
NBAA2012においてホンダエアクラフトの藤野社長から、いわゆるホンダジェット、HA-420の型式証明完了を待って、新型機の開発に着手する旨の発言が出ている。
現時点では、HA-420のFAAの型式証明取得は来年後半予定なので、本格的に開発が始まるのは2014年以降になりそう。
詳細についてはコメントを避けているが、Phenom 100/300に近いクラスであるということは認めた。HA-420は5座のVLJであり、クラス的にはPhenom 100に相当するので、仮に大型化する方向性なら、もう少し大きい7座のPhenom 300をターゲットにして開発することになるだろう。
性能で言うと、HA-420は、Phenom 100に対しては最大巡航速度で30ktas速く、300に対しては43ktas遅い。なお100はHA-420同様の直線翼だが、300は後退翼を採用している。
ホンダエアクラフトの基本的な方針としては、パフォーマンス重視で進めたいとしている。つまり単純にストレッチ型を作るといった話ではなく、パフォーマンス面での得失によっては、別の設計を選択することもあり得る。
もし新規設計となれば金も時間もかかるけど、この事業を将来にわたって継続するつもりなら、もっとノウハウを蓄積したいというのはありそうだ。実績はまだ1機種だけだし、後退翼だったりしたら、全く新しいチャレンジとなる。
若干興味深いのは、ホンダが長年自動車メーカーでやってきた経験から、デザインアイコンの重要性について触れてる下り。一目見てホンダの飛行機と認識してもらえるよう、一部のデザイン、主翼上面のエンジンや膨らんだ曲面構成の風防ガラスなどは、HA-420から引き継がれるだろうとしている。
かつて航空機のデザインでは、実験や設計者の経験からうまくいった形を踏襲するなど、メーカー毎のカラーが出るケースもあった。しかし現在は、設計レベルではCAD/CAMと数値解析の普及、製品レベルではエンジンメーカーの淘汰と寡占化によって、一つの正解(今は「効率」がキーワードだが)に近付けようとする傾向が強い。このため、デザインも同クラスなら似たような感じになるパターンが増えた。
もっと言えば、材料技術の進歩などでデザインの自由度そのものは上がってるはずだけど、定石を外したデザインでは売れるもんも売れない、と見られてる節も、業界内にはあるように思える。ホンダは異業種からの参入で、そこに一石を投じた形。
型式証明プロセスの状況については、HF120の認証待ち状態だそうで、2013年5月まで続く見通し。ただし飛行試験自体はそれより早く開始することになっていて、型式証明取得までの累計飛行時間は、試験機5機で1500時間程度を見込んでいる。
記事の最後では、新型機のエンジンについても軽く触れられている。GEとのJV、GEホンダエアロエンジン社は、HF120のコアを拡大、高出力化したタイプを検討しているものの、これが使われるかどうかは不明。もし採用されなければ、必然的に他社から調達することになるだろうが、ここも明言は避けられた模様。まだまだそういう段階ではなさそうな感じだ。
無理矢理HF120の3発とかになったら面白いが、エンジン数は増やさないだろうなあ。
なお、HA-420と同じくHF120を搭載予定の機種としては、Spectrum Aeronautical社のフリーダムS40というのがある。
http://www.spectrum.aero/the-freedom-s-40
独自技術によるCFRP製(エポキシ系)の機体が売りで、アルミ合金に比べて重量は2/3程度、同級で最も大きなキャビンを持つ。このため予定性能は、HA-420を含めた競合機すべてを大きく上回る。ことになっている。HA-420と同エンジンながら、性能が1クラス上になる予定。
S40の前段階として開発されているのがインデペンデンスS33で、S40よりもちょっと小振りな機体にエンジンはFJ33の双発。性能はVLJとしてはやっぱり高い。ことになっている。
S40の開発状況は不明。
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Unusual Attitude Training
STALLION 51というフロリダ州に拠点を置く企業が、Unusual Attitude Trainingと称する訓練プログラムを立ち上げようとしている。
同社は民間向けの、特にビジネス機クラスのパイロット訓練を、練習機とセットで提供するサービスをメインの業務とする。記事中、有視界飛行訓練にTF-51、計器飛行及び有視界飛行訓練にL-39を運用するとあり、公式の方を見てみると、このほかにもT-6(IIじゃなく元祖の方)も訓練機として保有しているみたい。
Unusual Attitude Trainingというのは、文字通り、飛行中の異常姿勢から回復する訓練を行う目的で考えられている。同社CEOによれば、従来こうした訓練は、軍用機(一部の法執行機関とかも含む?)のパイロット向けに限られていたため、民間航空の世界では浸透せず、パイロットが経験することも少なかった。
訓練は特殊な電子機器を搭載したL-39で行い、高高度からスタートして回復操作をシミュレートできる。また自社の医学部門であるAVMED51が航空生理学の座学を担当し、空間識失調、バーディゴなどについて学べるそうだ。
ちなみに、P-51の整備や売買を行う部門もある。何この趣味と実益を兼ねて最強に見える会社。
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Aerionが超音速自然層流翼のフェーズ2試験を開始
AerionはSSBJの開発でNASA(DFRC)と協力しており、フェーズ2としてF-15Bを使った超音速自然層流翼の試験を実施することになっている。試験用の構造物は大きさ80インチ×40インチ。元々は2011年後半に計画されたが、機材手配の関係で遅れた。
2年前のフェーズ1では、比較対照としてただの板をF-15に取り付けて飛ばすところまでやった。それからCFDで検討を重ねて形状を変更したりといった過程があった模様。
試験では、高度40000ft、Mach 2での飛行を行い、IRカメラでもって亜音速、遷音速、超音速それぞれの遷移時の気流の状態を調べ、計画通りの効果が発揮されるかどうか、また製造上の問題点を洗い出すためのデータ取りも兼ねる。超音速自然層流翼は、Aerionの独自技術の核心部分と言っていいものであり、かなり重要だ。
試験期間は1ヶ月から2ヶ月。6~10回の飛行が見込まれており、1回の超音速飛行は30~40分程度とされる。まあこんなんじゃ、機材繰りが無理だからって別をあたるわけにもいかんわな。
とは言うものの、2008年からこっちはSSBJを取り巻く状況が劇的に改善することがなかった上、予定したエンジン、JT8D-200シリーズの-219が早期に終了する可能性も出てきた。これはJSTARSなどのリエンジンがお蔵入りしそうな流れになったためで、防衛予算削減のあおりを受けた格好になる。
メーカーの状況は回復しつつあるとは言うものの、すぐにどうこうという話にもなってないのが実情。
そんなこんなで、民間の潜在顧客の要望に応えるべく、自社の技術を用いて遷音速程度での性能改善を提案することも考えてるみたいだ。自社の技術はスケーラビリティに富んでいるから、どんな機体にも適用できる、というのが同社の主張。
Aerionが挙げたのは、ビジネスジェット機のうちサイテーションXとガルフストリームG650で、これらの最大速度をMach 0.99まで引き上げる事が可能としている。
本命のSSBJ(Aerionの呼び方ではSBJ、Sがひとつ少ない)の方は、JT8Dの双発でMach 1.6、乗客8~12席といった仕様だった。製造はメーカーに委託するので、いわばファブレス。テクノロジー・プロバイダーと称している。
JT8D-219が無理なら、当然別のエンジンが必要となる。同社は代替案を検討中というが、どのみち低バイパス比で使うのだし、内容的には戦闘機用のエンジンをそのまま使うのが簡単っぽい。JT8Dと同級というだけならCFM56系あるけど。
http://www.as.northropgrumman.com/products/e8cjointstars/assets/PW_me_jt8d-219_product_card.pdf
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ガルフストリームがソニックブーム低減技術の実現に「極めて近付いている」と発表
SSBJだけに限った話ではないが、超音速飛行時に発生するソニックブームは航空機の高速化にとって、大きな障害となっていた。
ガルフストリームのソニックブーム研究は、2000年代に入ってからNASAとの協力関係に発展、2008年のNBAAではX-54というディジグネーションを与えられた実験機の存在も明らかにされた。が、X-54の姿は一向に明らかにならぬまま。しかしここに来て、quiet boom技術を適用した機体設計がほぼ完了したとの発表に至る。X-54が公表されてちょうど4年になった。
でもやっぱり具体的な形はわからずじまい。F-104似とも言われるが…
ヒントというか、エンジンが在来のガルフストリーム機に用いられたもので足りる、ということには言及されている。つまりG450のRRテイ、G650のRR B725のいずれか。ただし超音速巡航時に燃焼温度が高くなることは避けられないので、通常運転時の燃焼温度自体を引き上げる何らかの対策は必要であろう、とのこと。