英国内でニムロッド早期退役の余震が続く
SDSRの結果、ニムロッドMR.2は2010年3月に退役。MRA.4のキャンセルとともに、RAFの長距離海洋哨戒能力は、事実上消滅した。ことにMRA.4に関しては、開発が長期に及び、40億英ポンドという巨費を投じて、翌年には戦力化というところまで進んだ状態からのキャンセルだったため、様々な論議を呼んだ。
後に、あるMoDの官僚は、哨戒機に関する部分は、SDSRの判断の中でも最も難しい決定だったと述べたそうだが、この決定を巡っては今も議論が続いている。
9月19日、英国の下院軍事委員会は、長距離哨戒能力の欠如したままでやっていけるかどうかを評価し、Future Maritime Surveillance reportという文書にまとめた。この中には哨戒能力を再整備する選択肢の一つとして、MR.2の現役復帰に関する2011年の研究評価も織り込まれていたという。
英政府の公式見解としては、短~中期的にはASWおよびMPAの不在によるリスクは、許容できる範囲であり、それらが必要とされるような(軍事的な)圧力も受けていないというものだった。
下院軍事委員会は、MoDの主張を引用する形で、この結論に対して疑問を呈した。リスクが突発的に増大した場合の対応や、哨戒能力の欠如あるいは不足によって、中期的に状況が悪化する可能性を取り上げている。英国が横腹を晒すことにならないよう、より注意深く継続的にレビューを続けるべきであるとした。
2011年の研究においては、UAV、監視衛星、C295 MPAもしくはP-8Aのような有人機による代替手段を検討していたが、これらはSDSRに含まれず、次の10年における調達計画に入っていない。ということで、2015年の次のSDSRまで棚上げ、ということになっているのが現状。
最終的には哨戒機は不要としながら、それらの欠如に対するリスクも認めているのは具合が悪いというのが結論で、SDSRを進めた連立政権にとっては、あまりうれしくない内容となっている。
この他に出てるのが、ニムロッドの搭乗員の技量維持に関するコストとその後の代替手段の話。
技量維持の計画は、Speedcornと呼ばれており、2012年にはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国へ、合計33名の人員を派遣した。これにかかるコストは年間320万英ポンドで、同計画では2019年まで実施することが定められている。しかしこれが役に立つ(ニムロッドを現役復帰させる)可能性があるのは、現実的にはあと5年程度のため、委員会とエアバスミリタリーは、その間に次のMPAを導入すべきであるとの勧告を出している。
一口に代替手段と言ってもニムロッドに匹敵するような多目的プラットフォームと、単なるMPAとでは意味合いが異なり、前者であれば簡単には準備できない(事実上、替えが効かないと言いたいっぽい)が、後者であれば出来合の機体で間に合わせることができる、と述べたのは、統合/航空作戦能力/トランスフォーメーション担当の空軍少将。
有人のMPAとしては、まずP-8Aが挙げられるが、これは1機1億7000万ドルほどで非常に高価である。この金額はC295 MPA、4機分に相当する(もちろん能力は劣るが現実的)。
これ以外には、センチネルR.1Aの転用、RAFの保有するA400Mもしくはボイジャーにセンサを追加する案、またサーブ2000MPAソードフィッシュなど。いずれにせよ、次のSDSRでは検討する必要がある。
最後に登場しているのはスコットランド国民党のアンガス・ロバートソン議員。ニムロッドが長らく活動拠点としてきたRAFキンロスに関わりの深い人物で、MRA.4の退役について強く批判。アドミラル・クズネツォフが領海付近を航行した一件を取り上げ、英国政府がこの(哨戒機不在の)状況を放置するなら、海洋国家として横腹を晒し続けるのは認められぬ故スコットランド政府が防衛政策としてやるべきだとまで言っている。
実際に可能かどうかは知らないが、制度上は一応アリみたい?
ロシアでいくつかの市が原潜のスポンサーになった話を思い出した。
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英国MoDがケニアでのCasevac活動を支援する民間企業を募集
10月4日、英国MoDはケニア国内でのcasualty evacuation (Casevac)活動を支援する民間企業の募集について説明を行った。これはNanyuki基地に駐留する英陸軍訓練部隊、British Army Training Unit in Kenya (BATUK)を支援するための航空機と人員を投入するためのもので、予算は25ヶ月間で900万英ポンドを上限としている。
Casevacは読んで字のごとく、負傷者を迅速に搬送するための活動を指しており、緊急事態に際しては、10分から4時間で対応することが求められる。機体の要求としては、少なくともストレッチャー1名分と医療担当1名を乗せて、300kmほど輸送でき、活動する地域は標高8200ft以下、天候と時刻を問わず、飛行場のない不整地でも離着陸できることとある。また2つの分離した演習地域を同時にカバーできることも求められる。
Nanyuki基地では、1年間に6回程度、英陸軍の大規模な演習が行われており、駐留する人員は300~1700名と変動がある。1回の演習は概ね6週間続く。これらの演習は、アフガニスタンへの派遣に備えた内容となっている。写真はケニアでのプーマHC.1。
Casevac以外の副次的な任務としては、実弾演習後の後始末や写真撮影、演習そのものの支援といったものが含まれ、また、すべての活動はケニアの民間航空当局の定めた枠内で行われることになっている
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RAFがMQ-9操縦要員の訓練状況を明らかにする
http://www.flightglobal.com/news/articles/uk-reveals-pilot-levels-on-reaper-uav-unit-377263/
英国議会においてMQ-9の配備状況に関する質問が出て、これに回答する形で人員数などが明らかにされている。これによるとRAFでは31名がMQ-9の操縦資格を有しており、2012年10月から2012年9月までに16名が訓練を受けるという。
RAFのMQ-9は39Aqnに所属し、カンダハルに展開中。これらは2007年10月以来、米国のネバダ州クリーチAFBからRAFからの派遣人員によって遠隔操作されている。1機の操作には、パイロット、センサオペレータ、ミッションコーディネータ兼映像解析要員の3名がつく。この他に機体を取り扱うごく少数が現地のカンダハルに展開している。
今後は、リンカンシャーのRAFウォディントンに新たな地上管制局を設置し、機体を10機まで増強する計画がある。
活動状況については、6月19日までの3年間で176回の攻撃を実施した。標準的な装備は500ポンドのぺイヴウェイII×2とAGM-114×4。
偵察任務では、1週間あたり平均250時間ほどの映像を伝送してくるとのこと。
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RAF向けのRC-135W Airseeker改修状況
微妙にニムロッド退役と関連。
RAFではSIGINT機として、51SqnがニムロッドR.1を運用していたが、これは2011年をもって退役となった。その後継機として選ばれたのが、USAFで余剰となったKC-135を改修、RC-135Wリベットジョイント相当仕様にするという案で、L-3コミュニケーションズが受注して3機の改修作業が進行中となっている。
改修作業はUSAF側でも支援し、テキサス州グリーンヴィルにて2011年1月からスタートした。
耐用年数を延ばすために機体外皮を交換したほか、給油ブームを撤去し、逆に空中給油を受けられるようにするためのリセクタプルを追加する。またグラスコクピット化と、後部客席部に機器ラック追加、電線の全交換などが実施される。
2013年早々から地上試験、飛行試験が開始予定で、引き渡しは同年内を目指す。
L-3コミュニケーションズってNZ向けのP-3でやらかしてたが大丈夫か。