F-35のIOCについて
5月31日の国防総省の議会向け報告書(F-35 IMS Version 7)によると、USAF向けF-35AのIOC獲得は2016年8月~12月の間となる模様。
ここで言うIOCは、USAFの標準的な1個飛行隊を編成(定数12~24機)し、実戦環境下で「基本的な(basic)CAS」「限定的な(limited)SEAD/DEAD」任務を達成するのに十分な能力を有することを指す。
しかし2016年の段階では、一応の完成形であるソフトウェア、Block 3Fが間に合わない公算が強い。これは、最新の情報ではBlock 3Fが2017年後半まで開発完了しないと見られているためで、ペンタゴンがまた一歩譲歩した格好。
Block 2BまたはBlock 3iとされるが、明示はされていない。USAF向けの2Bと3Fの間の暫定ソフトウェアといった感じもする。interimのiかな。
今年2月頃の、日本向けF-35のソフトウェアがBlock 3Fでなく3iになるとの報道とも関連する。別に日本向けだけじゃなくて、もう全部遅れてるという。
一方USMCのF-35Bについては、2015年7月から12月にかけてのIOC獲得を目指しており、こちらはBlock 2Bで行く方針を固めている。こちらのIOCは、1個飛行隊10~16機でCAS、対空戦闘、航空阻止攻撃、assault support escort(USMCの用語で、MAGTFの空挺作戦の護衛を指す)、および武装偵察を含む。またAutonomic Logistic Information System V2ソフトウェアまでは入る。将来Block 3Fにアップデート予定というのはUSAFと同じだ。
Block 2Bでは短射程AAMは使えないが、AMRAAMは使える。
http://www.flightglobal.com/news/articles/f-35a-launches-first-amraam-386882/
F-35 AF-1からの最初のAIM-120C5 AMRAAM空中発射試験が6月に行われてる。
Block 3FでIOCを獲得するスケジュールをとるのはUSNのF-35Cで、2018年8月から2019年2月にかけてのIOC獲得とされている。
現在の最新版はBlock 2Aで、5月6日に最初の機体、AF-25がエグリンに到着した。
http://www.flightglobal.com/news/articles/eglin-afb-receives-its-first-block-2a-f-35-385643/
2Bも年内予定。
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F-35プログラムコスト下方修正
こちらも国防総省の報告書からの話題で、2012年度SARの要約によるとF-35のプログラムコストは、全体で3310億ドルから3260億ドルに減少したとのこと。実際のコストダウンは49億ドルほどになる模様。
内訳は、まず減少分が人件費の削減、78億5000万ドル。初期製造コストの圧縮、11億2000万ドル。2011年SARで指摘された分は、機体およびエンジンの下位のプログラムについてのコスト配分見直しで9億8100万ドル。予備部品と支援コストの見積修正で6億9800万ドル。基地施設の10億3000万ドル。
ここまでなら凄い頑張ってコスト削減できました、で終わる話なのだが、それで済まないのが恐ろしいところで、F135エンジンなどの開発コストの増加分で70億ドル以上が相殺されているそうだ。
大枠ではそういう勘定になるが、製造の遅れに伴うコストアップを、エンジンの方のスペアパーツ削減や初期のエンジン単価が見積より下がった事などである程度相殺してるらしい。
F135の開発費用については、新たにSDDにおける修正契約が結ばれた。
金額としては6億4900万ドルの追加。飛行試験とエンジニアリング支援にかかる費用のほか、2基の予備エンジンとスペアパーツが含まれる。この契約により、F135のSDDフェーズ期間は、2013年9月30日から2016年12月31日まで延長されることとなる。
SDD契約によってP&Wから提供されたF135エンジンの数は、CTOL型の17基、V/STOL型の14基。生産型としてはCTOL型100基とV/STOL型40基を納入したとのこと。
コスト削減に励んでも開発費用がかさむ一方…という現状が、改めてよくわかる。
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USAF参謀長がF-35Aの運用コストに言及
まだ運用が始まってない状況ではあるが、1飛行時間あたりのコストは32000ドル程度という数字が挙がっている。2012年度のSARで示された数字と大体同じで、現在のF-16C/Dのそれは1飛行時間あたり25000ドル。ただし長距離の遠征などについてはデータが足りない状態なので、根拠は弱い。とりあえず最大値はこの辺になると言いたいみたいだが、オランダにはF-16の1割増程度と説明した、という話もあったらしい。
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F-35製造計画は2015年度以降は安泰か?
これまでのF-35開発・製造の歴史は延期とそれに伴うコスト増大の繰り返しだった感がある(http://nation.time.com/2012/07/09/f-35-nearly-doubles-in-cost-but-you-dont-know-thanks-to-its-rubber-baseline/)が、国防総省で装備調達のトップを務めるフランク・ケンダル次官は、新しい問題が発生しない限り(2、3の軽微な計画遅延はあるものの)、と前置きしつつ、FY2015以降の製造見通しは楽観的であると述べている。計画では、米軍向けはFY2015に42機、FY2016に62機、FY2017に76機、FY2018に100機…となる。
また、こちらでもライフサイクルコストに絡んで運用コストにも言及されている。今出ている数字は過去の試算に基づいたものであって、更新が必要と発言。数字としては下がりつつあると述べた。
楽観的とは言うものの、飛行試験計画はまだ40%ほどしか終わってないという現実もあるので、勝利宣言にはまだ早い。つまり、2年間で相応の進歩を遂げたのも事実であるが、まだ計画に潜むリスクの全てが解消されたわけではないとしている。
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もう一つ、F-35Bの運用コストにまつわる記事があった。
http://www.flightglobal.com/news/articles/paris-usmc-works-to-reduce-f-35b-operating-costs-387410/
パリショーでのUSMC当局者(航空部隊の副司令にあたるロバート・シュミーデル中将)の発言から。
USMCでは、F-35Bの運用コスト低減に熱心に取り組んでおり、状況によってはA型と同等レベルまで抑制できるかもしれないという。MV-22の運用コストについて、20%ほども低減した実績がある。これには修理や特定の整備を、機体を送り返さずに飛行隊または中間レベルの施設で実施するという手法を用いたとのことで、同様のアプローチをF-35Bにも適用することを検討しているようだ。
現場と少し離れたところでは、机上でのコスト見積条件を、より現実に即したものに修正していくという事も考えられている。例えばSTOVL飛行の割合が現実とかけ離れた数字になっていたりするらしい。
最後の一点はシミュレータの活用というところで、部隊の活動のおよそ半分をシミュレータで行い得る可能性を示唆している。ネットワーク化されたシミュレータによって再現度はかなり高まっており、さらに実機の訓練では実施できないような厳しい環境を作り出すこともできるため、訓練飛行の大部分をシミュレータで代替するのみならず、それ以上の事も可能になるから、というのがその根拠となっている。