ボーイングがB.777Xを発表、年内ロンチを目指す
http://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-targets-year-end-777x-launch-369074/
2月頃から出てきた話で今更だが、一応まとめておく。
3月2日、ボーイングのCEOは、1000機目のB.777ロールアウトを記念する式典において、777の新たな派生型、777Xのコンセプトを発表、2010年代の終わりまでに市場投入する計画を示した。ロンチカスタマーとしては、エミレーツ航空と交渉を行っている模様。
現在考えられている777Xの基本的なバリエーションは、777-8X(353席)と777-9X(407席)の二つで、航続距離は8000nm程度。大雑把に言うと777-200ERと777-300ERの胴体をそれぞれストレッチし、787で確立した複合材料製の主翼を組み合わせる。また-8Xについては、長距離型-8LXの構想あり。
777Xの投入により、ボーイングのワイドボディ旅客機は、全て新世代になる。収まる位置としては、下に787-8(242席)、-9と787-10X(323席、2014年就航予定)、上に747-8(467席)、といったところ。各機種の展開は、同等の航続距離に対し、席数で15%ぐらいずつの差をつけるのが基本的な方針のようだ。
777-300ERからどの程度の改善となるかはまだ明らかでないが、ボーイングの偉い人によると「かなりの改善」とされている。
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やや詳細な記事。
http://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-homes-in-on-late-2012-launch-for-777-successor-369241/
777Xの構想は、ボーイング社内では2010年から2011年にかけて検討された。想定するライバルは言うまでもなくA350-900/-1000となる。今のところ、2015年に仕様確定、2017年後半から2018年にかけて初飛行、2019年までに就航というスケジュール。
2010~2011年と言えば、A320neoの発注が好調で、アメリカン航空が737MAXのロンチカスタマーとなり、ナローボディ旅客機の方に大きな関心が集まっていたが、水面下では777Xも進行していたというわけだ。
777Xは概念設計が進行中で、初期の風洞実験も行われた模様。
これまでの777(-200/-300、長距離型-200ER/-300ER/-200LR、貨物型)について言うと、2列通路のワイドボディ旅客機として1000機製造を達成したのが、史上最短とのこと。これから777Xへ刷新することによって2000機製造も視野に入ったとしている。
効率については、777-9Xが777-300ERに対し、どの程度改善するかという試算が出てる。試算によると、1座席当たりの燃料消費量で21%、1座席あたりの運航コストで16%の改善とのこと。数字だけで言えば787-9/-10Xをも上回り、2列通路のワイドボディとしては最高の効率となる。
777-9Xは全長76.48m、777-300ERに4フレーム分ストレッチした胴体を持つ。エンジンはGE9X(推力99500ポンド)で、MTOWは344ton。
777-8Xは全長69.55m、777-200ERに10フレーム分ストレッチした胴体を持つ。エンジンは-9Xと同様にGE9Xだが、推力は88000ポンドで、MTOWは315tonとなる。サイズから見ると、A350-900と直接競合するのがこちら。
売り文句としては、それぞれストレッチ前の型と同程度の運航コストで済む、といった感じになる。
あと、代替エンジンが各社から提案されているが後述。
-8Xの長距離型、-8LXは、777-200LRの代替という形で考えられている。航続距離は9395nmから9480nmとなるので、85nmほど延伸されることになる。例としては、従来カンガルー・ストップと呼ばれる南西アジア経由が普通だったシドニー-ロンドン間を、無着陸で結ぶ可能性も出てくるそうで、中継地が減ることによる収益性の向上が期待できる。
主翼などの変更については、翼胴フェアリングの改良(在来型の777の胴体にも取り付けられる)、787-9で開発されている複合層流制御、複合材料製の水平安定板を50インチ拡張するなど。改修点は多いが、システムの共通性は60%ほど保ち、787との共通性をも持たせることで、(ボーイング製旅客機の)パイロットの機種転換訓練を迅速に行えるようにするそうだ。結果、777/787から777Xへの機種転換は2.5~5日程度で済ませられるようになるという。
客室はフレームと側壁の形状変更で幅が4インチほど拡大され、エコノミーで10列、プレミアム・エコノミーで9列といった形が想定される。
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主翼について。
http://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-eyes-largest-ever-wingspan-for-777x-369243/
777Xの概念設計においては、大きく3パターンの主翼が考えられている。傾斜ウイングレット付きのスパン71.1m、プレンデッド・ウイングレット付きのスパン65mと68.6mといったもので、もし71.1mのスパンとなると、787をしのいでボーイングのCFRP製主翼としては最長のものになる見込み。この場合、翼面積は777-300ER/-200LRより更に10%ほど増積され、アプローチ速度を低く、騒音を小さくできる。
ボーイングでは777の主翼製造に関して、現状とはかなり異なるサプライチェーンを構築する必要がある。アルミニウムの主翼外皮とスパーは同社のオーバーンで製造され、エベレットの最終組立ラインへ送られる。
設計と製造は、787での反省から内製化されることが確実となった。言うまでもなく、これは知的所有権の面でも有益。
ただ実現するには、オートクレーブをはじめ、多大な設備投資が必要とされるのも確実。
長大な主翼には別の側面もある。ICAOの定めた空港設計区分では、スパン71.1mは余裕でコードFに該当する。まあ65m超えた時点でFなんだけど。
http://www.boeing.com/commercial/aeromagazine/articles/2010_q3/3/
現用機でコードFに含まれるのは747-8とA380で、超大型機の区分になる。これでは777後継機としては問題になるから、ボーイングは翼端の折り畳み機構を計画しているようだ。つまり、着陸後に主翼を折り畳めば、コードを一つ下げられるようになる。
同様の案は、実は777-200設計時にも計画されていた。スパン60mから、着陸後はDC-10並、50m以下に収める目的で、最外翼部のパネル2枚分、6.9mを折り畳むという話だったみたい。ただこれだと補助翼の端っこに掛っていたというから、実際にやったらトラブルの元になったかもしれない。ANAが反対したという話がウィキペに出てる。
当時反対されたことを踏まえてか、今回検討されている折り畳み機構では、分割を主にウイングレット部分の3.4m程度に留め、操縦翼面には掛らないようにして、設計上の複雑さや重量増加を抑えるという。
両翼で6.8mだから、ぎりぎりコードE(スパン52m以上65m以下)で収まる勘定にはなる。滑走路上に出たら主翼を展開してコードFになるが、そこまでできれば特に問題はない。
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ボーイング全体として、787開発で得た技術を最大に活かす戦略になってると言える。野次馬としては、新型機が出てこないのはつまらんけど。
エアバスがA350-900/-1000で苦労していることを、ボーイングは787で先に片付けたというのが最大の強みである以上、後出しでライバルを凌ぐのが最善手といっても良いか。
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エンジンは、今のところGE9Xが主になっているところであるが、RRはRB3025という新型を提案している。
http://www.flightglobal.com/news/articles/rolls-royce-pushes-new-engine-concept-for-777x-369294/
RRによると、RB3025はファン直径337cm。777-9X向けの最大推力は99500ポンドとされ、バイパス比12:1。燃焼効率の面でもGE90-115B(777-200ERなどのリエンジン型777で採用)より10%、トレント800(初期の777で採用)より15%向上していると主張する。
また総圧縮率(OPR)は62:1に達し、これは商用のターボファンエンジンで最も高くなる見込み。
RB3025はトレント1000およびトレントXWBを基にしているが、実験エンジンAdvance3 EFEの技術も投入されている。コアエンジンはトレント1000の派生、燃焼室、複合材など先進材料のファンと燃焼室など。
ボーイングの方では、エンジン選択を可能にするかをまだ明らかにしていないものの、RRは1~2年で仕様を確定し、6年ほどかけて開発できるとしている。
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http://www.flightglobal.com/blogs/flightblogger/2012/03/rolls-royce-pratt-whitney-set.html
P&Wのは概要だけだが、推力100000ポンド級のGTFエンジンについて、ボーイングからRFIが出た模様。
現用だと、ANAの777などがPW4000を採用している。
http://www.ana.co.jp/pr/11-0103/11-ana-pw0210.html
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そして本命のGE9Xは、
http://www.flightglobal.com/news/articles/ge-plans-10-fuel-burn-improvement-for-ge9x-engine-369242/
RB3025と同じく、GE90-115Bより10%の効率改善を謳う。推力は115000ポンドから99500ポンド/88000ポンドに下がる。GEnxと同世代の技術が投入される見込み。3年ほど前から開発が進められており、2012年には5000万ドルの予算を投入する。
GE9Xのファン直径は325cm、バイパス比10:1。OPRは60:1、高圧圧縮機は27:1とされ、それぞれGE90-115Bの42:1、23:1から向上する。